ビズパワーズ柳瀬智雄のコラム

エンゲージメント向上がうまくいかない会社はサーベイをやりすぎている

2026年03月26日

最近、「エンゲージメントを高めたい」という相談を受けることが増えました。
人的資本経営への関心の高まりもあって、従業員エンゲージメントを可視化するためにサーベイを導入する会社も増えています。

それ自体は悪いことではありません。
むしろ、組織の状態を見える化し、問題の兆しを早めに捉えるためには、とても有効な方法だと思います。

ただ、ここで少し立ち止まって考えたいことがあります。

エンゲージメント向上がうまくいかない会社は、サーベイをやりすぎていることがあります。

誤解のないように言うと、サーベイの回数が多いことそのものが悪いのではありません。
問題なのは、サーベイをやること自体が目的になってしまうことです。

サーベイを実施すると、数字が出ます。
グラフも出ます。
前回との比較もできます。
部署ごとの違いも見えてきます。

すると、何となく「組織改善に取り組んでいる感じ」が出ます。
ここが少し怖いところです。

数字が見えると、私たちはつい安心してしまいます。
でも、数字が見えたことと、組織が良くなったことは、同じではありません。

たとえば、ある部署のスコアが低かったとします。
すると、「上司との関係が悪いのではないか」「忙しすぎるのではないか」「評価に不満があるのではないか」と、いろいろ推測したくなります。

もちろん、その推測が当たっていることもあります。
でも、実際にはもっと別のことが原因になっていることも少なくありません。

上司が厳しいことが問題なのではなく、期待や役割が曖昧で、何を求められているのかわからないことが問題かもしれません。
仕事量が多いことが問題なのではなく、優先順位が不明確で、頑張っても手応えが感じられないことが問題かもしれません。
評価制度への不満が問題なのではなく、日頃の承認や対話が不足していて、自分が大切にされている実感を持てないことが問題かもしれません。

つまり、サーベイは異変を知らせるセンサーにはなります。
ですが、本当の原因そのものを教えてくれるわけではないのです。

ここを取り違えると、組織改善は途端に浅くなります。
数字が下がった。だから施策を打つ。
数字が上がった。だから成功だ。
そんなに単純なら、組織づくりはもっと簡単です。現実は、そんなに甘くありません。

私は、こういう場面でいつも思うのです。
組織づくりにおいては、「測れること」と「本当に大事なこと」が、必ずしも一致しない、と。

これは、人材育成でも同じです。
研修を何回やったか、何人受けたかは測れます。
でも、その人が職場でどう変わったか、チームの関係性がどう良くなったかは、そんなに簡単には数字になりません。

エンゲージメントも同じです。
測ることはできます。
でも、育てるのは数字ではありません。
日々の関わりです。

では、サーベイをやりすぎている会社では、具体的に何が起こるのでしょうか。
私は、よくある問題は3つあると思っています。

一つ目は、「調査疲れ」です。
何度も答えているのに、何も変わらない。
すると現場は、「またですか」「答えてもどうせ同じでしょう」と感じるようになります。
これでは、サーベイへの協力姿勢そのものが弱くなっていきます。

二つ目は、「数値の一人歩き」です。
本来、数字は対話のきっかけに過ぎません。
ところが、数字だけが独り歩きし始めると、「どう改善するか」よりも「どう見られるか」が気になり始めます。
現場が本音を言いにくくなったら、もう逆効果です。

三つ目は、「人事部任せになること」です。
人事部が集計し、分析し、資料をつくり、施策を考える。
もちろん人事部の役割は大切です。
ですが、職場の空気を変えるのは、人事資料ではありません。
毎日の声かけです。
1on1の中身です。
会議での扱い方です。
上司のちょっとした反応です。

つまり、エンゲージメントを左右するのは、現場のマネジメントなのです。

ここが本質だと思います。

エンゲージメント向上に必要なのは、サーベイの回数を増やすことではありません。
「対話の質を高めること」です。

サーベイの結果を見て終わるのではなく、
「この結果を、私たちはどう受け止めるのか」
「この職場では何が起きているのか」
「何を一つ変えてみるのか」
を話し合うことです。

大事なのは、立派な改善計画をつくることではありません。
現場で小さくても変化を起こすことです。

たとえば、上司がメンバーの話を最後まで聴くようにする。
会議で発言しやすい空気をつくる。
忙しい中でも、ねぎらいと承認の言葉を増やす。
役割期待を曖昧にしない。
こうした日常の関わりの積み重ねが、エンゲージメントを高めていきます。

エンゲージメントは、アンケートの中で高まるものではありません。
日々の仕事の中で育っていくものです。

自分の意見を言っても大丈夫だと思えること。
自分の仕事に意味を感じられること。
上司や仲間との間に信頼感があること。
自分がここにいてよいと思えること。

そうした実感の積み重ねが、エンゲージメントです。

ですから、もしサーベイを繰り返しているのに、組織が良くなっている実感がないのだとしたら、見直すべきは従業員の回答ではありません。
見直すべきは、サーベイの量ではなく、その後の対話と改善の質です。

サーベイは手段です。
目的ではありません。

測ることは大切です。
ですが、もっと大切なのは、測った後に職場で何を変えるかです。

「どれだけ細かく測るか」ではなく、
「測ったものをどう生かすか」。
そろそろ、そこに発想を切り替える時ではないでしょうか。

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