ビズパワーズ柳瀬智雄のコラム
AIが奪う、若手社員の「気づかなかった学習機会」
2026年10月01日

生成AIの進化によって、仕事の進め方が大きく変わりつつあります。
その中でも「これは便利だな」と感じるものの一つが、会議の議事録作成です。
会議を録音しておけば、AIが文字起こしをして、要点を整理し、決定事項や今後のアクションまでまとめてくれます。これまで会議後に30分、1時間とかけて作っていた議事録が、ほんの数分で出来上がります。
私自身、AIは仕事の生産性を大きく高めてくれるものだと思っていますし、積極的に活用すべきだと考えています。
ただ、最近少し気になっていることがあります。
「若手社員にとって、議事録を作ることは本当に単なる作業だったのだろうか」ということです。
私も若手社員の頃、会議に参加して議事録を作る機会が多くありました。
当時はもちろんAIなどありませんから、会議中に必死でメモを取ります。そして会議が終わった後、そのメモを見ながら議事録にまとめます。
これが結構大変でした。
会議で交わされた発言をすべて書けばよいわけではありません。
「結局、この会議では何が論点だったのか」
「なぜこの話から、この話に展開したのか」
「どの意見とどの意見が対立していたのか」
「最終的に何が決まったのか」
「誰が、いつまでに、何をするのか」
こうしたことを考えながら、会議の内容を整理していかなければなりません。
今振り返ってみると、この作業から学んだことは非常に多かったように思います。
例えば「論点」です。
若手の頃は、会議に出席していても、目の前で交わされている話を追いかけるだけで精一杯です。
しかし議事録を作ろうとすると、「そもそも何について議論していたのか」を理解しなければなりません。
これは、物事の論点を捉えるトレーニングになっていたと思います。
また、議論の「論理展開」も学びました。
ある人の発言を受けて別の人が反論する。すると別の視点から意見が出て、議論の方向が変わる。
それを文章として整理するためには、それぞれの発言の関係を理解する必要があります。
さらに面白いのが、人によって立場や利害が違うということです。
営業部門と製造部門では同じ問題を見ても捉え方が違います。経営側と現場でも違います。
「なぜ、この人はこんなに強く反対するのだろう」
会議中にはよく分からなかったことが、議事録をまとめながら考えていると、
「なるほど。この人の立場から考えると、ここが問題なのか」
と気づくことがあります。
これは組織で仕事をする上で非常に重要な学びだったと思います。
つまり、議事録を作るという仕事には、
「情報を要約する」
「論点を整理する」
「議論の構造を理解する」
「異なる立場から物事を見る」
「意思決定のプロセスを理解する」
といった、若手社員にとって非常に重要なトレーニングが含まれていたのです。
ところがAIは、これらを一瞬でやってくれます。
これは素晴らしいことですが、一方で、少し怖いことでもあります。
AIによって仕事が効率化されるということは、それまでその仕事を通じて人間が行っていた「思考」までAIに任せてしまう可能性があるからです。
これは議事録だけの問題ではありません。
「文章を書く」
「情報を調べる」
「データを分析する」
「企画書を作る」
「プレゼンテーション資料を作る」
これまで若手社員が仕事を覚えていく過程で経験してきた様々な仕事を、AIが代わりにやってくれるようになります。
もちろん、わざわざ非効率な仕事を残しておく必要はありません。
「若手を鍛えるためにAIを使わせない」というのも違うと思います。
大切なのは、AIによって仕事を効率化すると同時に、「その仕事を通じて、これまで人は何を学んでいたのか」を考えることではないでしょうか。
例えば議事録であれば、AIに議事録を作らせた上で、若手社員に、
「この会議の一番重要な論点は何だった?」
「なぜ意見が対立したと思う?」
「それぞれの人は、どのような立場から発言していた?」
「最終的に意思決定を左右したのは何だった?」
と問い掛けてみる。
議事録を作る「作業」はAIに任せても、会議について「考えること」は人間に残すわけです。
生成AIの活用によって、仕事の生産性は間違いなく高まっていくでしょう。
しかし、人材育成という視点から考えると、「作業がなくなること」と「学習機会がなくなること」は、分けて考える必要があります。
AIに何を任せるのか。
そして、人間に何を考えさせるのか。
これからの人材育成では、この設計がますます重要になってくるのではないでしょうか。
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